2005-01-01から1年間の記事一覧

「ララピポ」 奥田英朗

読む時間があったので終わりまで読んだが、読者に何を感じさせたかったのかが最後まで分からず。最後に「実はみんな死んでませんでした」という結末を持ってきているけれど、それで何かが救われる訳でも無し。いやほんと、何なんでしょう、この本は。「空中…

「魔王」 伊坂幸太郎

とてもいい出来の本だと思う。平穏な序盤から主人公がどんどん追いつめられていく終盤まで、全く無駄な要素がなく話が進んでいく。タイトルになっているシューベルトの歌曲のような悲しい方向に話が進んでいく中で、弟や弟の彼女、同僚の女性などとの会話に…

「容疑者Xの献身」 東野圭吾

ミステリの仕掛けは大した物だと思う。だけど、人の恋愛感情を扱っているにもかかわらず、味わいが感じられない。叙情性がない、とでも言うのだろうか。登場人物の感情がどこか記号的で、血肉を伴っていないように思えるのだ。この人の近作には特にその傾向…

「オタク市場の研究」 野村総合研究所オタク市場予測チーム

衝撃的な新発見はなかったが、オタク指数の高い僕の行動は客観的に見るとこう見えるのかな、という立場で楽しむことが出来た。消費者としてのオタクの行動をCollection, Community, Creativityという「3C」の切り口から分析する方法は、リーズナブルな整理法…

「県庁の星」 桂望実

ガチガチの役人エリート意識満々の主人公をダメスーパーに出向させる、という基本的な着想が良いと思う。できれば、主人公の意識が変わっていく様子をもっと丁寧に描いて欲しかった。それでも、とにかく着想の勝利。

「犯人に告ぐ」 雫井脩介

ものすごく面白かった。マスコミへの対応で致命的な失敗を犯して地位を追われた県警管理官が、今度はマスコミを利用した「劇場型捜査」を仕掛ける話。こういう逆転劇はイケイケな感じで読み進めることができて快感。主人公にも魅力があるし、脇を固める曾根…

「花まんま」 朱川湊人

大阪の下町を舞台にした幻想(?)短編集。どの短編でも生活環境は厳しくて、そんな環境に暮らしたことはないけれど、それでも不思議とノスタルジーをかき立てられる描写だ。きっと、普遍的な子供時代の輝きを書くのが上手なのだろう。そして、そのノスタルジッ…

「月曜日の水玉模様」 加納朋子

OLが持ち前の探偵眼を働かせて活躍する日常ミステリ連作集。軽く読めるけれどあっさりしすぎず、ほどほどに爽やかな読後感がいい感じ。凛とした主人公・陶子さんの人物造形も魅力がある。最終話で、それまでの登場人物を無理にたくさん登場させなくてもいい…

「ふしぎなお金」 赤瀬川原平

そういえば、この人は絵も描けるんだった。この人の一風変わった、けれどとても面白いアイディアを人に伝えるには、この人が自分で絵をつけるのが一番だ。これまでどうしてそういう企画の本が出なかったのだろう?と不思議に思うくらい、この本の中では絵と…

「蒲公英草子」 恩田陸

奇跡的な一作「夜のピクニック」と比べると小品の感は否めない(そもそも比べてはいけないのかもしれない)。でも悪くない。この人は、青春時代の美しい一面の描き方が非常に上手なのだと思う。「聡子様」の存在や主人公の心の在り方が、とても綺麗に描かれて…

「恐怖の存在」 マイクル・クライトン

ジュラシック・パークや近年の作品「プレイ」と同様、この作品にもアクションシーンが多い。なぜこんなにハリウッド映画的な(と僕は思っている)「やっぱり最後はアクションで」という締めになってしまうのか理解に苦しむ。これまでの作品と同様、この本を書…

「君たちに明日はない」 垣根涼介

リストラを実施する企業から請け負って、リストラ対象の社員に早期退職を受け入れさせる「首切り」を仕事とする男を描いた連作短編集。予想していた以上に面白かった。プロフェッショナルな姿勢を貫きつつも、胸にちょっと熱いものもちらつかせる主人公には…

「ヨコモレ通信」 辛酸なめ子

この人の本を読むのは初めてで、よくある類のイベント潜入体験レポートだろうと予想していたため、軽く読み飛ばして速攻で図書館に返すつもりだった。ところが読み始めてみると、嬉しいことに予想に反してとてもいい本だった。内容は予想通りのイベント潜入…

「震度0」 横山秀夫

それなりには読ませるけれど、横山秀夫の作品としては評価は低い。僕が最もこの人を評価するところの「熱さ」「格好良さ」が無いのだ。登場人物達は終始保身に走って策を弄するだけであり、全然気持ちを沿わせることが出来ない。最後だけちょっといい子に戻…

「孤宿の人」 宮部みゆき

ずっしりとした質量のあるドラマ。欲望、意地、権力志向、暖かさなど、人間のいろいろな要素が丁寧に描かれている。物語は宮部みゆきらしく良くできていて、厚い上下巻を滞ることなく読み進めていくことが出来る。キーパーソンの「ほう」は、知恵が遅れてい…

「駆けこみ交番」 乃南アサ

新米警官と七人の老人の物語。ほのぼのとしているくせにどんどん読めていい感じなのだが、この人には「音道貴子」シリーズのレベルを期待してしまうだけに、残念感が残ってしまうのは否めない。キャラが独り立ちしているシリーズと同等のレベルの話を書くこ…

「てるてるあした」 加納朋子

佐々良シリーズの二作目(かな?)。今回は一家離散で佐々良に越してきた女子高生の視点からの連作集。主人公の「気づき」にはこちらが恥ずかしくなるようなこそばゆさを覚えるものの、主人公と他の登場人物との距離感が僕にはちょうど良くて、読んでいて心地よ…

「ニッポン硬貨の謎」 北村薫

エラリー・クイーンのファンに捧げられた一冊であり、クイーンの本を読んだことがない僕にとってはどうでもいいノリに終始している。ミステリの仕掛け自体は悪くないけれど、とにかくノリについて行けない感じ。早く「空飛ぶ馬」のシリーズの新作を書いてく…

「死神の精度」 伊坂幸太郎

この人は面白い職業(?)を考え出すものだ。「グラスホッパー」の「鯨」の仕事も面白かったが、この本の死神の仕事も面白い。その死神の仕事の特色を生かした6編のストーリーから構成される短編集なのだが、スタイルが多彩なだけに、好きな作品とそうでない作…

「間宮兄弟」 江國香織

直木賞を取った「号泣する準備はできていた」は今では全く印象に残っていないが、この本は長く印象に残りそうな気がする。心を揺さぶるようなシーンは全くないにもかかわらず、だ。何と言っても主人公の間宮兄弟の人物造形に尽きるのではないだろうか。内向…

「SPEED」 金城一紀

「ザ・ゾンビーズ」シリーズの最新刊。安心していいペースで読み進められるのだが、赤の他人がゾンビーズに鍛えられ、目を開かされていくさまは「フライ,ダディ,フライ」と印象が重なるところが多く、「この本もこのパターンか」と醒めてしまったのが残念。…

「戦力外ポーク」 ゲッツ板谷

面白い。前に読んだ「話題の場所に行ったり話題のイベントに参加して感想を書く」という本があまり面白くなかったのだが、2002年に出たというこの本はすっごく面白い。この人は、できるだけ一冊の本の中でテーマを絞り込まず、その時々で書きたい内容を好き…

「「負けた」教の信者たち」 斎藤環

中央公論に連載された時評集。本としてのまとまりに欠けるところは仕方がないのだが、できれば、タイトルのテーマをもっと手間暇かけて扱って欲しかった。なぜ若者が「負けた」と確固たる自信を持って思いこむのか、については、著者の専門のひきこもりにも…

「実録鬼嫁日記」 カズマ

読み始めは面白かった。うわーすごいなー、と他人の不幸は蜜の味。 しかし、読み進めるうちに不愉快になってきた。あまりにも鬼嫁の言動が理不尽なのだ。ひどい。ひどすぎる。カズマよ、美人で料理が上手いとは言え、何でこんな女と結婚したのだ?と怒りがこ…

「正しい保健体育」 みうらじゅん

タモリ倶楽部での活躍を拝見するたび、みうらじゅん氏の本はいつか読みたいと思っていた。で、その一冊目がこの本。内容は、保健体育の教科書に出てきそうな項目をテーマに、タモリ倶楽部と同じ芸風で語り尽くすというもので、全くの予想通り、というか期待…

「三人目の幽霊」 大倉崇裕

落語を上手く題材にしたミステリ。北村薫の「空飛ぶ馬」シリーズとかぶる分野ではあって、北村薫の方がより洗練されているとは思うが、話の舞台がどっぷりと落語界に浸かっているところや、個々の話のテーマと落語の噺とが密接に関連している点などが異なっ…

「警視庁捜査一課殺人班」 毛利文彦

よくミステリやドラマに出てくる警視庁捜査一課の殺人担当班についてのレポート。事件発生から自白までの過程を丁寧に説明する章と、興味深い実例を紹介する章がほぼ半分ずつ。ミステリを好む者としては、日本の警察に関する基本的な知識を押さえておくとい…

「細野真宏の世界一わかりやすい株の本」 細野真宏

この人は「経済のニュースがよくわかる本」からのファンだが、この本もその流れをくんでいて、本質的な(と思われる)ことを分かりやすく丁寧に説明してくれている。具体的には、初心者の個人投資家が株に対して基本的にどのような考えを持てばいいのか、どの…

「人生ベストテン」 角田光代

上手くいかない恋愛関係に悩む女性心理の機微を描いた短編集。僕的には響くところがない短編が多かったのだが、その中で表題作だけは十分に楽しむことが出来た。ベッドの中でそれまでの人生のイベントをランク付けする、という主人公の習慣が面白いし、学生…

「世界中が雨だったら」 市川拓司

メジャーな単行本しか読んでいない僕からすると、この人にしてはちょっと作風の変わった中編三本。知らなかったけど、こんな小説も書くんですなぁ。三つとも好きな作風ではないが、三つ目を除く琥珀とカウンタ仕掛けの二つの中編はとても印象深いが、その二…