「アヒルと鴨のコインロッカー」 伊坂 幸太郎

この人のポップな文体は、読んでいて楽しくなる。特に語り手たちが自分の心情を何かになぞらえる表現が、自然に力が抜けていて、でもちょっと普通は思いつかない、笑いたくなるような表現なのだ。素晴らしい才能だと思う。心地よく浸っていたい文章だ。

唯一引っかかったのが、第二の語り手の琴美が警察に行かなかったところ。「警察に行けよ、その方が楽だって」と心の中で何度も突っ込んだけれど、琴美はひたすら逃避する。逃げるよりも、しっかり問題と向き合って相談に持ち込んだ方が、いろんな意味で楽なのに…。あの時点で警察に行ったとしても、本質的なストーリー展開は変わらなかっただろうと思うだけに、ここの違和感だけがちょっと残念だった。


軽快なタッチは「重力ピエロ」と同じ。ただ、この本の方が構成も見事で、大体展開の読めた「重力ピエロ」とは違って「あっ」と驚かされる。伏線の張り方も仰々しさは無くて僕好み。

この人の本、全部読んでみたいなぁ。