「神は沈黙せず」 山本 弘

●まず、残念だったところから。

この人のことは、「トンデモ本の世界」から高く評価してきた。いわゆる「トンデモ本」を、ただ論理的・科学的な観点から批判してこきおろすだけなら、誰でもできると言っていい作業だ。しかしこの人の凄いところは、絶妙な「つっこみ」というスタンスをとることによって、トンデモ本批評を一級のエンターテイメントに仕立てたところにある。楽しめるのだ。「トンデモ本の世界」にはめちゃめちゃ笑わせてもらったし、「トンデモ本の逆襲」と並んで二冊僕の本棚に納まっている。

しかし、その後は段々とつまらなくなってくる。エンターテイメント性が急激に薄れてきたのだ。それは「ネタ切れ」ということもあるかもしれないけれど…。先日久しぶりに「こんなにヘンだぞ!『空想科学読本』」を読んでみたが、辛くて最後まで読めなかった。そこには楽しさはカケラも無く、ただただ論理的・科学的な批判を書き連ねているだけ。単に「正しい」だけで、ちっとも面白くないのだ。

この「神は沈黙せず」にも、その傾向が多々見られる。主人公の思いを通してビンビン伝わってくるのは、、非科学的・非論理的な考え方への怒りだ。主人公は、最後には「人は信じたいものしか信じないのだ」という諦めに似た境地に落ち着くけれど、それは筆者が頭でしか理解していない事実であるように僕には思える。筆者の心が叫んでいるのは、首尾一貫して「非科学的・非論理的な考え方への怒り」なのだ。それが僕には痛くて悲しい。貴方はもっと、人が様々な考え方をすることの面白さを捉えることが巧みで、それを世の人に楽しく伝えることができたじゃないか? 貴方が大好きな論理性を世の中が尊重してくれないからと言って、駄々をこねているようにしか見えない。人は物事を「論理的に筋が通っているから」信じるんじゃないという見解には至っているのだろうに。


●でもそれを差し引いても、この本を読んで良かった。

着想が、最近読んだSFものの中では群を抜いて素晴らしい。もしかしたら、世界は筆者がこの物語の中で描いたとおりの成り立ちをしているのかもしれない。筆者の提示した「神の意図」は、僕の胸にすとんと素直に落ちた。それは多分、僕がコンピューターに関わりの深い理系の人間であるからかもしれない。または、「楽しむこと」が至高の価値を持つようになった最近の僕のスタンスに、この「神の意図」がぴったりと馴染むからかもしれない。

それにしても、「神の意図」といったアンタッチャブルなテーマを、自分のスタンスを貫いて、あくまでも具体的に書ききるところが何ともこの人らしい。具体性がないことをとにかく嫌う人だもんなぁ。(^^;)

大作、どうもご苦労様でした。次は是非、あの「つっこみ」の感覚を取り戻した本を世に送り出して頂きたいと願っております。