「夜のピクニック」 恩田 陸

ここ二〜三年では、綿矢りさの「蹴りたい背中」と並ぶ僕的ベスト。パーフェクトな小説だった。

歩行祭」という一見地味なイベントの中で、登場人物やイベントが完全に調和しつつゴールへと収束していく感じ。ほとんどの登場人物がいい人で、ちょっと昔読んだ武者小路実篤の小説を思い出した。しかし武者小路実篤の本の登場人物のような偽善的な嘘くささはなく、一人一人が魅力的な輝きを持っていて、素直に「受け入れてしまいたい」と思ってしまうようなキャラクター達だった。

一文一文が愛おしいという点では綿矢りさ作品と同じなのだが、綿矢りさの文章を読むときのような、対峙するような緊張感はなく、無理なく柔らかく心にしみこんでくるような文章だった。この人の本はこれまでにも二〜三冊読んでいるはずだけど、全体の構成だけでなく細部にまでこれほどの完成度の高さを感じたことはなかった。

小説雑誌に、一年半かけて隔月で連載していたらしい。最初から構成は決まっているのだろうが、一年半もの間に他の作品と並行して書きながらよく完成度の高い作品に仕上がるものだ、と妙なことにも感心してしまった。